奈良先端科学技術大学院大学 > 情報科学研究科 > ソフトウェア工学講座 > 研究テーマ

ヒューマンコンピュータインタラクション (HCI) > 要求工学 > 要求獲得の支援ツール

要求定義ミーティングにおける相互理解を支援する

研究の背景

ソフトウェア開発における要求段階に問題があった場合,開発の「手戻り」が生じてしまいます.また,要求定義の多くは,顧客と開発者が獲得する対面のミーティングにおいて行われます.ゆえに要求に欠陥をつくり出さないために,ここで顧客の要求を正確に開発者に伝える必要があります.しかし,顧客と開発者では専門領域や背景知識が異なるため,円滑なコミュニケーションを行うのは容易ではありません.

Fichrerらは,人がコミュニケーションを行い相互理解を得るためにはコンテキストの共有が重要であるとして下の図を用いて説明しています.[1]

ページ改善例

図1:  共有されているコンテキストと意図の伝達の関係

意図とはメッセージの背後にある意味のことであり,コンテキストとはメッセージが表現され理解されるための背景知識となるものです.このように,共有しているコンテキストが十分にあると話し手の意図と聞き手の割り当てた意味との不整合は生じにくくなります.

また,コミュニケーションとは情報の交換によって知識を共有する活動を意味し,情報を交換するために共通の語彙と言語が必要です.したがって多くの語彙や 言語を共有することができれば,円滑なコミュニケーションが可能になります.したがって,この観点からみると,要求定義は共通の語彙と言語を獲得する作 業,つまり知識獲得作業とみなすことができます.[2]

要求工学においてコミュニケーションを質的に向上させれば,的確な要求仕様を作成することができ,結果としてシステムの構築と開発コストの削減が期待できます.


目的

ソフトウェア開発の初期段階で的確な要求を獲得させるため,コミュニケーションを質的に向上させます.


アプローチ

顧客と開発者が共有している語彙や言語を増やし,要求を定義するコミュニケーションを支援します.そのために対面異文化間コミュニケーション支援ツールであるEVIDII (an Environment for VIsualizing Differences of IndividualImpressions)を用います.


EVIDII システムとは

画像や言葉に対する個々人の考え方や捉え方の違いを視覚的に認識できるように,アソシエーションの差異を可視化するシステムです.[3]ここでのアソシエーションとは一人の議論参加者がある一つの議論対象と,それを評価するために用いる外部的表現とを対応付けるときの関連を言います.ここでは,風景画像と印象語のアソシエーションの例を示します.

アソシエーション
図2:  アソシエーション

可視化結果
図3:  アソシエーションの差異の可視化結果

議論参加者は作成されたアソシエーション差異の可視化結果とインタラクションを通して,「気づき」を生じさせます.生じた「気づき」をきっかけとして,様々なアソシエーションを参加者が見ながら,共有知識を増大させていきます.

「気づき」とは,日常の状態では意識してこなかった自らの知識にアクセス可能になるためのきっかけとしての現象です.例えば,釘打ちをしている最中の人にとって,ハンマーは釘打ちをするための「もの」として明示的に意識していません.ハンマーとしての存在が顕在化するのは,ハンマーが壊れたり手から落ちたりしたときです.そして,本人がその存在に気づき,その重さや形状といった属性を考えることができます.このような効用を持つものを「気づき」といいます.

気づき

図4:  気づき


要求工学の分野でEVIDII をどう応用するか

顧客と開発者の要求定義のミーティングに用いるために,顧客と開発者に,システムの画面イメージのスケッチとユースケースを対応付けてもらいます.これらのアソシエーションの差異の可視化結果と議論を通して「気づき」を生じさせます.そして,生じた「気づき」をきっかけにし,様々なアソシエーションを参加者が見ながら共有知識を増大させます.ここでは,顧客の業務ノウハウの知識,または開発者の開発ノウハウの知識が共有されているかどうか,つまりお互いがどのような言語や語彙を共有しているのかを探っていきます.


参考文献

[1] Fischer,G.,Nakakoji,K.,and Ostwald,L.:Supporting the Evolution og Design Artifacts with Representations of Context and Intent, in Proceedings of DIS'95,Symposium on Designing Interactive Systems, pp7-15,ACM(1995)

[2] 大西淳,郷健太郎:要求工学,共立出版,2002

[3] 大平雅雄:対面異文化コミュニケーションにおける相互理解構築とアイデア創発の支援に関する研究, 博士論文, 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科, NAIST-IS-DT-0061006, 2003



Copyright © 2007 Software Engineering Laboratory, NARA INSTITUTE of SCIENCE and TECHNOLOGY. All Rights Reserved.